今日のサンライズは昨日の疲れもあってお預け。そのせいか、起床時間は7時となってしまった。日本じゃ早起きだが、こちらカンボジアでは何となく遅起き、損した気分になる。朝食を済ませ、カンボジアでは初のバイクタクシーを利用し、遺跡を回ることにする。バイクタクシー――その名の通りバイクの後部座席に乗せてもらう。カンボジアの女性は、バイクに乗るとき足を揃えて横座りで乗り込む。そういや、タイのアユタヤでもそういう光景を目にしたな。すごくお姫様チック。つばの長い白い帽子をかぶり、そのつばを片手で抑えてバイタクに乗っていれば、なんだか絵になりそうだ。
料金所を経て、毎日押し寄せるアンコール・ワットの観光バスを尻目に、バイヨンを目指す。目指すといっても、通過するだけなのだが。今回は、大回りコースを回る計画を組んでいた。アンコール・トムを通り過ぎた後、プリア・カンにまず向かう。ニャック・ポアン、クオル・コー、タ・ソムを経て、東バライの東メボンを観る。そして、プレ・ループを堪能した後、そのままオールド・マーケットに向かう。オールド・マーケットでの待ち合わせ時間が16時。少しハードな1日になるかもしれんな、と思いつつ、最初の目的地、プリア・カンに行く。ちなみに、待ち合わせは昨日、一昨日と一緒した九州人ふたり組みなり。
プリア・カンはなかなかの規模をもつ遺跡なのだが、こちら大回りコースをツアー客が訪れることはほとんどないのだろう、人は少なかった。深緑に包まれた遺跡の中に、どでかいガルーダの浮き彫りがあったりと飽きがこない。ガイドブックには見所がいろいろと載っていたが、適当に無視して、ぶらぶらと歩きまくった。絶対に人が行かないだろう、という方向に突き進んでみたり、隅々まで歩きまくった。印象的だったのは、二層構造の建物かな。ギリシア等の遺跡ではよく目にする構造だが、アンコール遺跡群では今回初めて目にした。寺院というより、神殿という印象を受けた。これはなんだ、ってことでガイドブックを見てみると、図書館説が有望なのだそうだ。シルクのローブを身にまとった禿頭の僧がうろうろと本を探している様子が頭に浮かんできた。
ニャック・ポアンで観世音菩薩の化身であるヴァラーハの石像を観、クオル・コーに行く。クオル・コーは大回りコースでも、とりあえずスルーされる遺跡。運転手にリクエストを出さないと、間違いなくスルーされていた。だって、「今日行きたい場所は、プリア・カンとニャック・ポアンとクオル・コーとイーストメボンと……」とバイクタクシーに乗り込む前に伝えたら、「クオル・コーも!?」と意外そうな顔をされた。あまり訪れる人がいないのだそうだ。案の定、僕以外誰ひとりいなかった。売り子すらいない。ただ、ちょっとでっかめの蜂はブンブン飛び回っていた。ビクビクしつつ、そんなに見所のないクオル・コーでまったりと時を過ごしていた。少しだけ遺跡を独り占めしている気分を味わえただけでも素敵だった。
次に訪れたるは、タ・ソム。見所は、東塔門! リエップという高い木に門が覆われているのだそうだ。西塔門から入り、各種デバターを眺めつつ、うろちょろと中央祠堂周辺をぐるぐると回り、無駄に体力を消費してようやく東塔門に至った。東塔門をくぐり抜け、すぐそばに見える石に腰掛ける。なるほど、見事にでっかい木が門を覆い尽くしている。まさか、この遺跡が建立されたときはこのような姿になるとは誰も予想していなかっただろうなぁ、と、どうでもいい思いを馳せる。ひとりの少年(というには若すぎる)が近づいてきた。「ポストカード買ってよ。1USドル安いよ!」。しばらく休みたかったため、少し相手をしてみることにした。とりあえず値切ってみる。「500リエル(0.125USドル)で買うよ」。「やすっ! じゃあ、3000リエルで」。双方でやり取りが続き、結局1700リエルまで下げることができた。ちなみに、そこまで値切ったにも拘らず買わなかった。手持ちの最低紙幣が1USドルだったから……。それと、オールド・マーケットに行けばもっと安く手に入るだろうと思っていたから。
ピラミッド式の東メボン、プレ・ループを最後に回る。とくに、プレ・ループは造りが豪華で、中央塔からの見晴らしも絶景だった。人が少ないせいもあり、見渡すは自然の風景のみ。太陽の光が少々眩しかったが、その陽に照らされたどこまでも広がる森林は見ていて、まったく飽きがこないものだった。ピラミッド式の遺跡はアンコール・ワットを始め、多く在るが、プレ・ループは純粋にピラミッドを彷彿とさせる輝きを持っている。いちばん下の雑草地から、首を傾け見上げて見える中央塔の景色は、ただ大きいものだった。アンコール・ワットでこのような景色を見ることはできない。
待ち合わせ時間の15分前にオールド・マーケットに着く。時間までマーケット内をぶらつくことにする。狭い通路を多くの人がぶつかり合いながら通っていく。大振りな肉には無数の蝿が集り、その蝿を店番が払いのける。食品通りをしばらく行くとみやげ物屋が顔を出す。整然と並んでいる店舗にカンボジア人の姿はあまり見られない。店番も華僑の人が多い印象を受けた。とりあえず、買いたいのは現地のお菓子と実家に送るためのポストカード。まずは、ポストカードを値切って買うことにする。売られていたポストカードは、アンコール遺跡群で子供たちが勧めていたポストカードと同じ物。(これで値段が同じくらいだったら……)、嫌な予感が頭をかすめる。「How much is this one?」、ポストカードセットを指差し訊ねる。返ってきた答えは、「1USドル」。おいおい、同じ値段かよ……。それなら、子供たちから買ってたよ。みやげ物屋で同じ代金を支払うくらいなら、子供たちにお金を流した方が全然いいじゃん。と言っても、アンコール遺跡群は遠い。渋々値切って、2セット4500リエルで購入した。地味に、遺跡の子供から買っていたほうが安かったし……。
その後、R君、M君と合流し、お菓子をこれまた値切って購入し、ぶらぶらとマーケット内を散策した後、G.Hに戻った。夕食を済ませ、近場の銭湯に出向き、露天風呂から月を見上げながら今日の疲れを癒す。香薬がこれでもか! というくらいに効いていた湯沸し式銭湯は、凄まじく心身をリラックスさせてくれた。さて、明日はシェムリアップ滞在最終日。20時10分発の飛行機でバンコクへ向かう。時間ギリギリまで、この滞在を楽しもうと心に決め、部屋に戻った。
んでもって、付け加え! ポストカード、Tシャツ、安物のスカーフを買うなら、ぜひ遺跡群の子供たちから買おう! もしかしたら、子供たちに入ったお金は横に流れているのかもしれない。でも、みやげ物屋で同じ物を買うくらいなら、子供たちから買ったほうが気持ちがいいと思う。俺も現地の子供から買っていれば……、今更ながら少し後悔してしまう。だから、ね。機会があったら。