2007年全米映画批評家協会賞 実験的作品賞を獲得した作品。”実験的作品”がキー。ただでさえ、はぁ? といった作品が多い、デヴィット・リンチ、その監督の作品に与えられる”実験的”という文字。もうね、絶対にわけわからん世界に叩き込まれると思ったね。製作スタイルを見ても、それは頷ける。リンチの頭の中にはある程度の構想はあったらしいが、まとまった脚本無しで撮影に挑んだため、製作期間は2年半に及んだのだそうだ。リンチが好きな時に俳優を呼んで自分でカメラをまわしその断片を繋げていくという製作方法、入れ子、入れ子の空間が生み出されているんだろうなぁ、と。
劇場は満員御礼。19時15分前にやって来て、満員のためには入れない人も多かった。良かった、先に予約しておいて……。でね、案の定わけわからんかった。最初の裏切りには答えることができたが、そのあとの急展開には参った。たぶん、もう1回、いや2回観なくちゃ、自分なりの答えを出せないと思う。映画は、ひとつの分岐点があり、そのあたりから、真実と虚像が入り乱れてくる。それがとてもわかりにくい。何も構えずに訪れた人は、ずーっと頭の中に”?”が浮かんでたんじゃないかな。3時間もそれが続くと、”リンチ”を知らない人にとっては苦痛を感じるかもしれない。
なぜそんなことを言うのか。それは、閉幕後、文句たらたら帰っていく人が多かったから(カップルに多かった)。いや、映画を観た素直な感想だし、リンチ自身もその言葉は賞賛に値すると感じるのかもしれないが、やっぱり”2006年ベネチア映画祭 栄誉金獅子賞”獲得という文字に釣られて、リンチが何者かということをまったく知らずに観てしまうのは少し損しちゃってるかな、なんて。前作の『マルホランド・ドライブ』も癖のある作品だったが、『インランド・エンパイア』と比べたら、まだまだ全然観やすかったように思える。『インランド・エンパイア』はまさしく実験的映画、リンチ初見がこれだったら、「もう、リンチ作品はいいっス」ってなっちゃう気がしないでもない。噛みしめてなんぼの映画だし、好き嫌いはとーーーーってもはっきりしそうだね。
3時間という長丁場、リンチの世界に久々に浸れて心地よかったが、ひとつだけその心地よさをぶち壊してくれる出来事が。それは、隣の席の人。たぶん、周りの人も気になっていただろうなぁ……、なんかね、意味わからんところで笑いすぎ。もしかしたら、リンチの笑わせどころがわかっている人か? と最初のうちは思っていたが、ありえない場所でも笑っていたので、あ、これはないわ、と考えを方向転換した。映画館の席ではずれを引くと、映画の中にどっぷり入り込めなくなるのがとても悔しい。
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