宿で仲良くなった広一くん(4歳)をあしらいつつ陽朔に向けて旅立つ。陽朔で一泊した後に戻ってくるため、大きな荷物は置いてゆく。拠点を構えられるって素敵。さて、本日のバスの旅はツアーも兼ねている。現地のツアー。ガイドも中国語、乗客も僕ら以外みんな中国人、完璧アウェイだ。でも、安いからいいの。どうせ、ガイドの言葉なんて聞かないんだし。ちなみに、このバスツアーの締めくくりは陽朔で行われる”印象・劉三姐”である。
バスはがたがたとあまり整っていない道を走る。気づいたら、なんか変な建物の前に止まっていた。他にもバスがいっぱい停まっている。ここはひとつの中継地点なんだろう。話を聞くと20分くらい時間を潰すと聞く。とりあえず建物の中に入る。石がいっぱい! 石だらけ。そして、みんな群がっている。なるほど、ここがお土産屋さんか。……ツアー一発目にいくところ!? ふつう最後に行くんじゃないか、という突っ込みはさておき、とりあえずカメラのシャッターだけ押すことにした。バスの出発前に水を買い込む。
第一の目的地に着いた。聚★潭(★は尤のレの部分に斜線)という鍾乳洞らしい。実は、このツアーに参加しているにも拘らず、どこに行くのかさっぱりわからない。リージャン(漓江)(正式には、★江: ★はさんずいへんに離)下りしかわからない。こんなにも下調べをせずにツアーに参加、というか桂林を訪れているのは、たぶん僕らくらいだろう。みなさんはしっかりと調べていってくださいね。前知識があれば感動も5割増すはず。
さて、鍾乳洞である。鍾乳洞に入るまで、ここが鍾乳洞とはまったく気づかなかった。鍾乳洞の名称を探してみるが、見あたらない。なんという名前の鍾乳洞なんだろう……。かの有名な銀子岩? はたまた冠岩? 知識ゼロのまま鍾乳洞へ誘ってくれる手漕ぎ船に乗り込んだ。ひんやりとした洞穴の中は艶やかにライトアップされている。たまに、「これはあまりにやり過ぎだ」と感じてしまう光景も目に入ってきたが、それを含めて中国だと思うことにした。むしろ、目が慣れてくると「これはこれでアリだな」と思えるまでに至っていた。写真写りが良いのが最たる理由であろうか。”老人守宝”という名の鍾乳石群があったが、いまいち老人が宝を守っている様子がわからなかった。きっと、星座のように充てられた形があるんだよね。
今回訪れた鍾乳洞は、月亮山風景区の一部であり、重点風景のひとつとして数えられているらしい。あまりメジャーじゃないのが残念な点だろうか。ただ、そのおかげか観光客はさほど多くなかった。ツアー参加者も僕ら以外たぶん全員が中国人。あぁ、完全に現地のツアーなんだな、と感じた瞬間だった。でもね、癒し系は存在したんだ。青い半袖シャツとホットパンツを身につけた中国人の子・葵ちゃんである。名前は、青い服を着ていたことから。”あおいちゃん”→”葵ちゃん”という安易な発想はあまりにひどいが、この旅の中で幾度か”宮﨑あおい”ネタで盛り上がったことも手伝って、即座に定着してしまった。
鍾乳洞観光を終えると、巨大な菩提樹を抱える水辺を訪れた。大榕樹景区というところらしい。樹齢1400年以上のガジュマロの木! 訪れたときは、その木がそんなにすごいものとは思っておらず、木陰で涼み水辺で遊んでいる子たちを眺めていた。
菩提樹をあとにし、同風景区のメインといえる月亮山がきれいに見える高台での昼食となった。ここで初めてツアーの人たちと言葉を交わす。黄色い服の女の子(推定年齢13歳、以下黄色っ子)が日本に興味を持っていて、茶道を習っていると聞く。ちょっとだけうれしかった。やっぱり、日本人だからね。そういや、黄色っ子は反抗期だった。父親、弟とこのツアーに参加していたみたいだが、ツンツンしていた。ツンツン。
山の中腹にぽっかりと開いた半月型の穴を見て初めて「ここが月亮山か」と気づいた。それから数分後には出発していた。だから予備知識ゼロは困る。さて、いよいよ本日のメインテーマであるリージャン下りだ。シンピン(興坪鎮)から船に乗り込み、1時間半の遊覧を楽しむ。通常は、竹江から乗って4時間の遊覧を楽しむんじゃないかな? でも、ひとつアドバイスをもらって1時間半のコースを選ぶことにした。ガイドは中国語、もちろんわからんので無視する。江の風を感じ、景色を楽しむ。
山水画が目の前にある! という気持ちは残念ながら沸かない。山水画をじっくりと見たことがないから。ただ、下手な知識が無い分、眼下に広がる光景をそのまま受け入れることができた。日本にはない広大さ、まさに”中国っぽい”。太陽の光は抑揚をつけ岩山を照らす。陰の部分と陽の部分が鮮やかに分かれており、より偉大に感じられる。目を江に落とすと濁った水の下で魚が泳いでいることが確認できる。この土地が生きていることを肌で知った瞬間だった。
乗った船が小型だったためか融通が利きやすかったのだろう、リージャンの途中の中州に降ろしてもらった。早速、平たい石をひとつ拾い、江と水平に投擲した。ジャボン。一段であった。2度目のチャレンジ。――同じだった。きっと水質が悪いんだね。連れは五段くらい飛ばしていたけど、あれは気のせい。
あっという間の江下り、しかし1時間半という時間はちょうど良かったように思える。船着き場から、再びシンピンの街中を歩き街の入り口を目指す。待っていたバスに乗り込み、数十分後に陽朔周辺で降ろしてもらった。そういえば、葵ちゃんや黄色っ子と写真が撮れなかったなぁ。でも、一期一会がいいんじゃない。そんな思いを抱き、予約していたホテルへ向かった。
陽朔では、桂林で泊まっていた宿のオーナーの奥さんの兄がガイド(以降、兄ガイド)をしてくれるらしい。not英語。only中国語。なかなか先が思いやられる。ホテルに荷物を置いた僕らは、彼から案内されるがままに食堂に入った。地元のローカル人が入るような食堂。ここも、桂林の宿のオーナーが手配してくれていたらしい。現地の食事を食べてもらいたい、ということで。出てきた料理は、揚げ魚のビール煮。とっても名物らしい。たっぷり油で魚の両面がパリパリになるまでこんがりと揚げ、その後トマトや唐辛子と一緒に煮込み、ネギ、ショウガ、醤油などで香り付けし、最後にビールで一気に煮る。僕らがチョイスした魚は剣骨魚(ナマズ)である。リージャンならではの魚! 魚? 魚!! ほろほろと身が柔らかくとても美味しかった。少し奮発(80元!)したが、とても満足のいく一品だった。ついでに、メニューが読めないにも拘らず適当に鴨っぽいのを注文したら、アヒルが出てきた。美味しかったよ、家鴨。
食事のあとは、いよいよ本日最後のイベント”印象・劉三姉”である。北京オリンピックの演出を担った人が企画した広大な劇、という情報しか知らない僕ら。予備知識ゼロもいいところで現場へ向かった。落石注意と書かれ、半強制的に通行止めされている道路を無理矢理乗り越えて行く。たぶん、下手したら死んでたと思う。僕の頭の優に3倍はあろうかという岩が数個近くに落ちていたから。
劇の受付の前には「あんたたち、どこから集まってきたの!?」と言っちゃうくらいの人が集合していた。500人はいる。すごいよ、中国すごいよ。ここで漸く中国人以外の外国人を目にすることができた。おそらく欧州人だと思われる。日本人を目にする機会はかなり少なそうだ。うだるような暑さの中、券をもらい開演を待つ。
開場、暗い足下に怯えつつ席を探す。あった! 前から4列目だ。一般席なのにこんなに前でいいのかしら、そう思っちゃうくらいの良席。リージャンにそびえ立つ岩山を華麗にライトアップし、劇はスタートした。江をすべて用いた演出、うごめく景色が人工的な自然を演出していた。水面にうつる儚い光と地上で織りなされる逞しい光群がアンバランスで常に目が奪われていた。ふと気がつくと、民族衣装を着た女の子たちが最前席から1メートルくらいの距離にずらりと並んでいる。喉を震わせて発せられる歌声が響き渡った。闇と光、静と動が互いに殺し合うことなく絡み合うショウは飽くことがない。劇が終わった瞬間、暫くの間、焦燥感に駆られていた。
艶やかな演舞を堪能し、その足で西街を少し訪れることにした。西洋と中国が混ざった街を見たかったからだ。残念ながら、西洋人はあまり見られなかったが、石畳と連なる店は中国のそれと一線を画していることは一目瞭然だった。ぶらりと西街を歩いた後、数件在ったクラブ兼バーの中からひとつを選んで入ってみることにした。皿を回している人はいなかったが、ポールを使って微妙に踊っている人ならいた。音はガンガンと脳内を刺激し、レーザー光は目を貫く。雰囲気を楽しみ、ビールを嗜み、数十分後西街を出た。とても入りやすいクラブだった。
長い一日が終わりを迎える。西街で飲んだ一本のビールが心地よい。汗を流したあと、翌日の待ち合わせ8時を約束して眠りについた。
おまけの知識。リージャン下りだけど、竹江から出る日本語ガイドツアーでふたり以上ならひとりあたり590元、英語だと450元。そして、今回俺らが参加した上記のツアーはひとり320元。劇は別だけど。中国語でどんと来い! って方にはお勧めだと思います。中国語で数字さえ分かれば、おそらくどうにかなるはず!(出発時間等を知るために、ね)